トラクター、耕運機、草刈り機……。全国有数の農産地・愛知県田原市で、農機具などが相次いで盗まれている。県警によると、昨年1年間の被害は23件。転売目的の犯行とみられる。現場で何が起きていたのか。
「ないじゃんね」
昨年12月ごろのことだ。田原市でキャベツなどを育てる男性(55)はビニールハウス近くに置いてあった草刈り機2台と耕運機2台がなくなっているのに驚いた。「まさか農機具が盗まれるなんて、思いもよらなかった」。田原署に被害届を出した。
農機具は普段はビニールハウスの奥にしまっていた。畑ではキャベツを夏から冬に数回に分けて植え、それぞれ3~4カ月ほど育てて収穫している。被害に遭った時期は肥料をまく作業をするために、すぐに使えるようビニールハウスの外に置いたままにしていたという。
草刈り機は1台5万円ほど、耕運機は1台十数万円。気軽に買い直せる値段ではない。耕運機の1台は、以前トラック運転手だった男性が7年前に農家に転身したころから使っていた思い入れのあるものだ。
もう1台は3年前に購入した一回り大きな耕運機で、部品が壊れても修理して大切に使ってきた。
その後、耕運機の1台がインターネットオークションに出品されているのを見つけたと県警から連絡があった。ネット上の写真からは見覚えのある修理の跡が確認できた。
残りの1台も同様に出品されていたことも後に判明したが、すでに落札されていた。捜査員が落札者を訪ねて耕運機を引き取るなどし、2台とも戻ってきた。
しかし、草刈り機2台の行方はわからないままだ。肥料をまく作業は予定より1週間ほど遅れてしまった。
長さ50mの電気ケーブルまで…県警「一件一件真摯に捜査」
被害届の提出から約半年後の6月1日。この耕運機2台を盗んだとして県警がペルー国籍の金属回収業の男(42)を逮捕した。その後の捜査で、耕運機は別の人物が盗み、男は売却を依頼されてさらに別の人物に売りさばいていたことが判明。検察は盗品等処分あっせんの罪で男を起訴した。
県警によると、盗まれるのは農機具にとどまらない。ビニールハウスの骨組みに使う金属製のパイプや電気ケーブル(長さ50メートル)など名産品の電照菊の栽培に欠かせないものもあった。多くは屋外に置いたままにしたり、倉庫の施錠をしていなかったりしていた。県警は倉庫の施錠や畑にセンサーライトをつけるよう呼びかけている。
市町村別の農業産出額で、田原市は全国2位(2021年)。17、18年には1位にもなった「農業王国」だ。県警幹部は「農機具は農家さんにとって手となり足となる生活の一部。大切に使ってきた思い入れのあるものだ。一件一件真摯(しんし)に捜査して、被害を減らすため取り組んでいく」。(渡辺杏果、奈良美里)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル